ツルガオ・プロジェクトからタイトス・プロジェクトへ

ツルガオ・プロジェクト

1988年から、フィリピン聖公会北フィリピン教区(EDNP: Episcopal Diocese of Northern Philippine)、キープアメリカ後援会(ACK: American Committee for KEEP, Inc.)、ポール・ラッシュの会と協働して、フィリピンのルソン島北部山岳地帯にあるツルガオ村(Tulgao)で住民参加型のプロジェクトに取り組んできました。これまでの25年間、コミュニティ・オーガナイザーおよびミッドワイフを派遣し、上水道設備、集会室・図書室・簡易診療室を備えた公民館、農業指導、小規模水力発電、植林、そして奨学金プログラム等を行なってきました。

これらのプロジェクトによって村の生活は相当の改善をみましたが、何よりいちばんの成果は、それまで閉鎖的かつ攻撃的で周囲の村から恐れられ嫌われていたツルガオの人びとが、同じ境遇にある周囲の村々に対して、水道敷設の協力を申し出たり、医療ミッションをツルガオから派遣したり、隣村ダナナオ(Dananao)との水力発電の協働など、平和的・調和的な「部族」に変わったことであるといいます。

しかしながら、当該地域の最大の問題である「食糧」については未だ有効な解決手段を見出せていません。気候、地形が理由となって主食の米は、一年のうち8ヶ月分しか自給することができないでいます。不足する4ヶ月分の食糧を得るため、そして、子どもの教育費や医療費を稼ぐため、多くの村人がカリンガ州北部の穀倉地帯に農業出稼ぎに出向いています。EDNPのパブロ・ブイヤガン司祭(Fr. Pablo Buyagan)は、”HUNGRY MAN IS ANGRY MAN”と言います。確かに、食糧が欠乏する期間に、犯罪や部族間抗争が多発しています。

タイトス・プロジェクト

EDNPのブレント・アラワス主教(Bishop Brent Alawas)は、ツルガオを含むティンガラヤン地区、そして、トクカン地区とサダンガ地区を加えたタイトス(TiTuS: Tinglayan, Tucucan, Sadanga)という広域のミッションを新たに構想し、“Peace upon the mountains”をモットーに、「信仰」「若者への希望」「食糧」「健康」「環境」というポール・ラッシュ博士の理念に沿ったプロジェクトを立ち上げました。 タイトスは山岳地帯において最も貧しく、最も開発が遅れている地域のひとつです。 そして、タイトスのなかでも特にティンガラヤンの人びとは経済的に困窮しています。地理的に山岳地帯の最奥に位置し、地形が、横断が困難なほど傾斜している点にもあります。このため、政府や教会はこの地区の開発に着手するのが遅れています。地域内のほかのエリアに比べて、ティンガラヤン地区は発展という意味では何十年も立ち遅れているのが現状です。

稲作が主要生産作物であるにもかかわらず、村内の需要を満たすことができず、市場から購入せざるを得ない状況にあります。栽培している野菜は自給用の豆ぐらい。少数の村民が市場で販売する目的でかご編みや鍛冶をしています。

住民は40キロ以上離れたマウンテン州(Mountain Province)のボントック(Bontoc)や、50キロ以上はなれたタブック(Tabuk)にある病院へ行くことを余儀なくされています。

ハイスクールを卒業するとほとんどの学生は、ボントックかタブックにあるポリテクニック・カレッジに進みます。そのなかでも少数の学生だけがカレッジに進学することができますが、卒業後はティンガラヤンで就職する機会がないために他の地域で仕事に就くしかありません。

このような状況をさらに複雑にしているのは、往々にして、ティンガラヤン地区の村同士やまわりの地域との部族間抗争です。 これは個人的な対立ではなく、村全体としての対立です。「目には目を」という古い原則にのっとり、過去の暴力的な民族間紛争が村同士の対立として現れています。子ども、女性、老人であっても例外ではありません。死者を出さないように、人々は農作業を中断し、他地域に通学する生徒は帰省せざるをえず、村外に外出することが禁じられ、和平協定が結ばれるまで何週間も何ヶ月、もしくは何年もこの状態が続いてしまいます。

EDNPは、5つの教会と4つの伝道所をティンガラヤン地区に設立してきました。そして、布教の任務のほかに、キープ協会との協働でコミュニティベースのプロジェクトに携わっています。特筆すべきは、司祭や神学生、キープ協会の奨学生が地域の部族間抗争の状況を緩和する効果を生んでいることです。EDNPの職務は当該コミュニティの住民の暮らしを、現在の地獄のような状況からすこしでも天国に近づけるようにすることです。

2011年、EDNPの案内により、タイトスの他の村、スマデル(Sumadel)、ベロング(Belong)、ブトブト(Butbut)を訪問しました。村によって様子は異なりますが、食糧を一年通じて自給できていないという問題は共通しています。スマデルとベロングの人びとは、裏山の反対側に水源があり、その水を引っ張って来れば、水田を増やせるし、二期作も可能になるといいます。ブトブトの人びとは、土地はあるが灌漑ができない、草が生えているので牛を飼ってみたいといいます。

食糧という大きな問題を、 一つの村で解決するのは非常に難しいのです。例えば、ツルガオでは棚田を増やしていくのは地形的に限界があります。しかし、タイトスの村々が食糧問題の克服を共有したならば、例えば、スマデルでは米の増産、ブトブトでは畜産、急峻な地形の村では果樹やコーヒーといったように、タイトスという大きな共同体で、それぞれの役割を果たし、単一の部族でなくタイトスとして食糧問題を克服していけるのではないだろうかと思うのです。

一方、ボントックの南では、棚田での稲作から野菜に転換する村が多くなっています。野菜を栽培してその収入で米を買う方が、労働という観点からも効率が良いそうです。しかしながら、野菜の商品価値を高めるため、化学肥料を多用し、土壌に対する悪影響が蓄積され問題化しています。タイトスの農民は、あくまで米をつくり続ける、しかも、化学肥料には決して手を出さないといいます。また、当該地域には地熱発電所や鉱山開発の話があり、それには断固反対するという話を聞きました。

ブイヤガン司祭は言います。「この土地は神様が我々にここで生きよと与えてくださったパラダイスなのだ。パラダイスは守らなければならない」また、「才能に恵まれた者や都会での生活を選んで村を去る者は確かにいる。しかし、9割の人びとはここで生きていかなければならない」と。この言葉を聞いて思い出しました・・・「置かれたところで咲きなさい」。

これまで部族間抗争は、人びとの生命を脅かすだけでなく、村の生産性を著しく阻害してきました。タイトスという大きな共同体としての「未来」は、部族間の平和を前提にして初めて描くことが可能になります。食糧問題の解決には相当の年月を要することでしょう。お互いに厳しい歳月を平和のうちに生き抜く覚悟、信念が必要となります。この信念を共有するうえで、EDNP=教会=信仰は、真っ先に実体化形しなければならない計画です。キープ協会の第一のプロジェクトが、清里聖アンデレ教会の奉献であったことが何よりの証左です。

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